温故知新だわさ

はねるのトびら』(フジテレビ)でチュートリアル・徳井さんが清原選手にキスをしていた頃、私は桂三枝師匠の落語を聞いておりました。というわけで、寄席の雰囲気のことなども交えつつ、『鈴本初お目見え特別興行』について。

『「いらっしゃーい」上方落語協会会長 桂三枝        鈴本初お目見え特別興行』(鈴本演芸場

私のお笑いのルーツは落語だったようで、その証拠に まだ幼稚園に入る前によそ様の家のコタツに上がり、「え〜、お笑いを一席」と小ばなしをやっている写真が残っています(苦笑)。どうやら見事なまでに父の遺伝子を受け継いだようで、小学校低学年のうちに子供向け落語全集を買い与えられて喜んでいたばかりか、担任の先生が誇らしげにそらんじた『寿限無』の長い名前の間違いを指摘するという、気持ちの悪い子供時代を経て現在に至っています(苦笑)。

だから落語は昔からわりと身近な存在だったけど、田舎で育ったせいで、初めて寄席に行ったのは上京してから。しかもそのときは両親同伴。1人で行くとなると、独特の雰囲気の中で楽しめるかどうか心配で、二の足を踏みたおしていました。でも、三枝師匠のお目見えとなれば話は別。何せ大人気の落語家さんだし、他の出演者も『笑点』(日本テレビ)でお馴染みの林家木久蔵さんや林家たい平さん、「こぶ平」から九代目を襲名した林家正蔵さん、その義理のお兄さんでもある春風亭小朝さんなどそうそうたる顔ぶれ。こりゃあ行かないわけにはいきませんぜ。

開演は5時半と、催し物が始まる時間にしては かなり早い印象。それでも人気者ばかりの出演なので客席は満員どころか、立ち見も出るほどでした。客層は いつも行くお笑いライブとはだいぶ違って、ご年配の方々がメインだったみたいです。

舞台の方は、落語の合間に「色物」と呼ばれる太神楽(だいかぐら)や粋曲、紙切りが入り、トリが三枝師匠でした。ちなみに、太神楽というのは「おめでとうございま〜す!」で一躍人気になった海老一染之助・染太郎さんのような、傘の上でいろいろなものを回したり、口にくわえた棒に土瓶をのせ、バランスをとったりするような曲芸のこと。粋曲は色気のある都々逸(どどいつ)や俗曲といった昔の庶民の歌のことみたいです。紙切りはお馴染みですね。お客様の注文を聞き、その場で即座に紙を切り抜き、ご要望に応えます。

落語は現代風もあれば、昔からのものをやった方もいて、昔ながらの噺(はなし)のほうは、長屋の八っつぁんが言葉遣いが丁寧すぎるお嬢様を嫁にもらう『たらちね』や、骨董品屋さんが茶屋で見つけた高価なお皿を何とか安く譲り受けようとする『猫の皿』など。どちらも知ってる噺だったので、得した気分でした。『猫の皿』はドラマ『タイガー&ドラゴン』(TBS)でも取り上げてましたね。

この日の主役、三枝師匠の落語は現代もの。「体感落語」といって、途中でお客さんに選択肢をゆだねていました。噺はリストラされたことを家族に言えないサラリーマンが、1日を過ごした公園を後にしようという時、途中で茶封筒を拾います。中に入っていたのは大金。果たしてこれを警察に届けるべきか、黙って持ち帰るべきか。サラリーマンは悩みに悩みぬきますが、答えは出ず。ここで客席の意見を聞くわけです。選択肢は4つ。「警察に届ける」「届けない」「ちょっと使って届ける」「たくさん使って届ける」。…意外と言うか何と言うか、「届けない」を選んだ方も多かったのですが(笑)、「届ける」と「届けない」の最終決戦の結果、今回は「届ける」ことに。ところが悩んだのは、拾い主のサラリーマンばかりではなく…という内容でした。

落語は時になじみのない言葉が出てきたり、接する機会があまりなかったりと、よほどのきっかけがないと入り込むことのない世界かもしれません。でも、三枝師匠のような現代落語なら、設定の時代も今だし、言葉も難しくないからとっつきやすそう。古臭いと遠ざけるのは簡単だけど、来年は落語家さんが主役の映画も公開になるようだし、今のうちにちょっと触れておくと より楽しめるかもしれませんわよ。